寺に住むカレー妖怪のブログ

埼玉は芋芋しい町のとあるお寺に住みついているカレー妖怪のブログです。寺務したりカレー食べたりカレー作ったりカレーを愛でたりしています。 住職に隠れてこっそりやっているお寺のフェイスブック→https://www.facebook.com/unkousan/

安居生活 ご祈祷の日々①

修行中何をやっていたかと聞かれると一言では言えないが、日中の多くの時間、注力していたのはご祈禱であった。

 

自分がいた僧堂(お山)は、来山されたお客さんからのご祈禱も受け付けていた。

つまり、お客さんが受付にて交通安全、家内安全、厄災消除のような御祈願内容を申込み、それを受けて担当の僧侶がお札を書き、それをご祈祷所に持って行く。そして、我々ご祈祷担当の僧侶がご祈祷を行って、念じたお札をお客様にお渡しする、というような流れであった。

ご祈祷は導師と呼ばれるえらいお坊さんが真ん中に位置取り、種々のご祈祷作法を行っている傍ら、その左右に座す僧侶たちが読経を行う。僧侶の左右の列(両班という)の最後尾は太鼓や鏧子(けいす)と呼ばれるカネを鳴らす者たちが陣取る。太鼓が木魚のような役割を果たして読経のスピードを決め、鏧子は決められたポイントで鳴らすことで、今読んでいるお経の位置を全体に把握させるなどの役割を果たすのである。


初めてご祈祷に交ざる日、先輩からの指示は「とにかく最初のうちは声を出せ」ということであった。ノースキルの下っ端にはまだ太鼓などの鳴らし物は早すぎるのである。

先輩方はもう経本を持たずに読経をするが、下っ端は強制的にもって読むのが仕事。そして禁足期間中にお経を覚え、禁足があけたら今度は強制的にもたないで読むこととなる。(禁足については前回参照↓)

currymandara.hatenablog.com

 

とりあえず習うより慣れよということでちょこちょこっと説明を受け、ご祈祷が始まる。ファーストタイムは毎朝必ず行うご祈祷だったので、助かることにお客さんはいなかった。

最初にお経の題目(タイトル)が唱えられた。般若心経である。

よかった、渡された経本には知らないお経も載っているが、これなら暗記している。

そう安心したのもつかの間、周りの声が聞いたことのないまったく異質の呪文に聞こえて即座に戸惑うこととなった。なぜだ、これは聴き馴染みのあるはずの般若心経ではないのか。呪文を聞きながら、なんとか断片的にフレーズがわかり、その理由がわかった。

お経が速すぎるのである。

早口の人が喋ると、わかるはずの文章が聞き取れなくなる、ということがたまにあるだろう。そのお経バージョンである。

たいていの場合、お経はスローテンポで読まれる。だから眠くなるとか言われるほどだ。これは寝ている暇などない。読んでいる人たちはお経早口選手権にでも出場したんか?と当時は思うくらいに早く聞こえた。

一番覚えている般若心経でこれなのだから、他のお経など言わずもがなで、あっという間にご祈祷は終わってしまった。

 

これを禁足期間の100日間で覚える・言えるようにならねばならないのか…太鼓が早すぎる…しかし時間を費やして良いならなんとか…と気合を入れ直していたところで先輩が畳みかける。「太鼓と鏧子も禁足中に出来るようになってもらうからね」

え。

つづく。