寺に住むカレー妖怪のブログ

埼玉は芋芋しい町のとあるお寺に住みついているカレー妖怪のブログです。寺務したりカレー食べたりカレー作ったりカレーを愛でたりしています。 住職に隠れてこっそりやっているお寺のフェイスブック→https://www.facebook.com/unkousan/

僧堂修行中のカレー事情③

前回のあらすじ:僧堂に来て一週間、慣れないことばかりで疲労困憊の中、今夜の薬石はチキンカレー!割と早くのカレーとの再会に心躍るカレー妖怪。

 

しかし試練は訪れた。すなわち時間との戦いである。

説明しよう。

夕食(薬石という)は、山内にいる役寮さん(お山の役職者として在籍しているお坊さん。修行僧は逆らえない。)と修行僧が、一緒に卓を囲む。そこでの第一のルールが、食べるスピードを、その場にいるメンバーの中で一番偉い人に合わせる、というものである。大抵の場合はお山のトップである山主老師に合わせることとなる。食べている途中のスピードは各自自由だが、食事の終わりは合わせなくてはならない。すなわち、たくあん1枚を残してすべて食べ終えたら、器の中についたソースなどを最後のたくあんでぬぐってきれいにし、器の中にお茶を注いでさらにたくあんでぬぐい、各器で同様にしてできあがった汁を味噌汁椀に集約させる。そしてたくあんを食べ、最後にいろいろぬぐった汁を飲み干す。その飲み干した器を盆上に置くタイミングは、ほぼ一致していなければならないのである。

 

そして戦略が必要となってくるポイントが、盛り付けはセルフサービスという点である。どういうことかというと、自分が食べたい量をとることは物理的に可能だ。しかし、山主老師は年配の方なので、食べる量はそれほど多くない。というかそこそこ少ない。一方で食べるスピード自体はそれほど遅くない。というかそこそこ速い。つまり、スピードを合わせることのみを考えるなら、食べたい量よりも食べられる量を盛り付けるべきなのだ。

このルールを知ったのは、旦過寮を降りて皆での食事に加えてもらえるようになった二、三日前。初日はルールを知らず(教えてくれよ)大幅に遅れをとって先輩に睨まれた。まだまだ全体のスピードに不慣れな自分は淑やかでささやかな適量を盛り付けるのが安牌…!!

 

しかし、カレーだぞ??

 

カレーが次にいつ出されるのかなんてわからない!1週間後か1ヶ月後かはたまたもっと…うううううこれこそ煩悩…!!!

 

悩んでいる間に薬石の時間が始まってしまう……えええい、今回はこれで行ってやる!すなわち攻め気味の折衷案だ!!!

ご飯は少なく、ルーは多く!これならば咀嚼時間を減らせる上、カレーもたくさん食べられる!!我ながら名案!!!いざ、いただきます!!!

 

ぱくっ…スピードの問題はあれど、一週間ぶりのカレー、そして次にいつ食べられるかわからない。さすがに序盤は味わって食べたい…これは…とてつもなくバー●モントではないか。つまりとっても家庭的、古き良きジャニーズカレーの原風景…!いいんだ、お肉がちょっと硬くても、じゃがいもがちょっと硬くても…一期一会の、文字通り有難いカレーに感謝するんだ…。

さて、カレーそのものを純粋に堪能したところで、三口目くらいから、すでにスパートをかけていきたい。カレーの器はうどんのどんぶりくらいの結構な大きさで、盛り付け用のレードルも大きかったし、実はうっかり予定以上に盛ってしまったのだ…。

しかし予想外に、熱い。めっちゃ熱い。30人分くらいのカレーが入る大鍋で直前まで煮込まれていたので、いまだに湯気が立ち込めている。具材も大きく切ってあるのでなかなか冷めない。じゃがいもあつうっ!

どんぶりに口をつけて飲んでやろうかと思ったがどんぶりが大きすぎて自分の口の大きさだとこぼすから無理、しかもすする音を出してはいけないのであつあつのカレーをのどに一気に流し込まねばならない、絶対無理。(そして多分マナー違反で怒られると思う)

仕方ないのでひたすらスプーンを高速に動かし、半液体とあれど顎を動かし高速に咀嚼しながらの冷ましてのどに流し込んでいくしかない。米をもう少し盛っていればカレーと混ぜることで温度を下げられたのだが、逆にルーを多めにしたことがあだとなった。完全に戦略ミスであった。後半に行くほど、もはや焦りで味を気にしているどころではなくなった。結果的にはたくさんのカレーを食べられたといえども。結局やや間に合わないわ口の周りは汚すわでなんとも気まずい思いをしてフィニッシュ…!

 

これがつまり煩悩に負けたということである。

修行は自分の煩悩と嫌という程向き合わせてくる…。

僧堂修行中のカレーをめぐる葛藤(煩悩)の始まりであった。続く。